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イタリアン・ホラー界の悪趣味帝王ルチオ・フルチ監督による悪名高きジャッロ「ザ・リッパー」。彼のフィルモグラフィーの中でも、そのエロ・グロ度の高さでは群を抜く怪作です。当時はダリオ・アルジェントが「シャドー」('82)でジャッロに原点回帰し、カルロ・ヴァンツィーナの「ドレスの下はからっぽ」('85)やランベルト・バーヴァの「暗闇の殺意」('86)などが次々と発表され、ちょっとしたジャッロのリバイバル・ブームの様相を呈していました。フルチにとっても「ザ・サイキック」('77)以来のジャッロ作品。時流を心得たフルチらしい作品チョイスだったと言えるでしょう。
ちなみに、冒頭でフルチのことを“悪趣味帝王”呼ばわりしましたが、ボク自身は決してフルチが悪趣味だとは思ってません。彼の作品における露骨な暴力描写や性描写というのは、彼自身が持つ極端なアナーキズムに由来するもの。根本的にフルチは反逆者である。ありとあらゆるものに不信感を抱いている。宗教、政治、モラル、愛、セックス……全てに対して非常に懐疑的なんですね。あえて観客の神経を逆なでするような表現手段を用いることで、見る者の常識やモラルに挑戦し問いかける。それはホラー作品だけではなく、「ベアトリーチェ・チェンチ」('69・日本未公開)のような歴史劇や「上院議員は女好き」('72・日本未公開)のようなコメディでも一貫してます。勿論、この「ザ・リッパー」も例外じゃあない。
舞台はニューヨーク。ブルックリン・ブリッジのたもとで女性の腐乱死体が発見される。捜査を担当するのはニューヨーク市警のウィリアムス刑事(ジャック・ヘドリー)。被害者周辺の聞き込み捜査から、不可解な犯人像が浮かび上がる。被害者宅に不審な電話をよこした、アヒルの声を持った殺人鬼だ。そうこうしているうちに、若い女性ばかりを狙った連続殺人事件が次々と起きる。ウィリアムス刑事は犯罪心理学専門の大学教授デイヴィス博士(パオロ・マルコ)の助言を得ながら、犯人を追いつめようとするのだが……。
ということで、一応は推理サスペンス的な要素を盛り込みつつも、本作の核心は現代社会における人間の性衝動と凶暴性に集約される。ニンフォマニアの金持ち夫人、セックス・ショーの本番女優、売春婦など、被害者となる女性はいずれも性的に堕落した存在。唯一の例外がヒロインとなる女性フェイ(アルマンタ・ケラー)だけど、彼女は殺人鬼に狙われながらも間一髪で救出される。犯人はモラルの欠如した女性たちに恐るべき暴力の制裁を加える。乳首や眼球をカミソリで切り裂き、割れたガラス瓶で女性器をメッタ刺しにし、鋭利なナイフで腹を掻っ捌く。果たして異常なのは性を貪る女たちなのか、憎悪と暴力に剥き出しにした殺人鬼なのか?フルチ流の究極の選択というわけだ。
さらに本作では、クライマックスで犯人の顔面を銃で吹っ飛ばすという凄いシーンもお目見え。「ザ・サイキック」では断崖絶壁での顔面クラッシュ、「野獣死すべし」('80)ではガス・バーナーでの顔面溶解という前科のあるフルチ。その徹底した人体破壊フェチぶりは、あの三隅研次監督も真っ青ですね。
なお、ホラー・ファンは脇役の女優陣にも注目! 売春婦役はダニエラ・ドリア。「地獄の門」('80)では内臓を口から吐き出し、「墓地裏の家」('81)では後頭部から鉄杭で串刺しにされた彼女が、今回は乳首&眼球切断という酷い目に。ある意味、究極のM系女優です。そして、割れたビンを女性器にぶち込まれる本番女優役がゾーラ・ケローヴァ。ウンベルト・レンツィの「人喰族」('84)で乳房に鏃を刺されて宙吊りにされていた女優さん。さらに「アクエリアス」('86)や「デモンズ3」('88)でも御馴染みのバーバラ・クピスティが、デイヴィス博士の助手ヘザー役で顔を出しています。