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Jホラーの先駆者であり、「マスターズ・オブ・ホラー」第2シーズンの一編「ドリーム・クルーズ」でアメリカ進出を果たした鶴田法男監督。その「ドリーム・クルーズ」劇場版の日本公開決定を記念し、鶴田監督の独占インタビューをお届けいたします!!
ホラーTV(以下HTV):まずは、今回の「ドリーム・クルーズ」を監督することになったいきさつと、お引き受けになった理由を教えていただけますか?
鶴田法男監督(以下TN):いきさつというのはとても単純で、日本側のプロデューサーから“こういう企画があるのだけれど引き受けていただけませんか?”という連絡がありまして、それで引き受けさせていただいたんです。
ただし、鈴木光司さんの「夢の島クルーズ」という短編を原作にしなくてはならない。しかも、アメリカでのテレビ放映が決まっている一方で、日本とアジア、場合によっては欧米でも劇場公開するかもしれない。なので、劇場公開に関しては85分以上、テレビ放映に関しては60分じゃないといけないという条件があったんです。
しかし「夢の島クルーズ」という作品は本当に短編でして、単純に映像化すると10分とか15分くらいにしかならないんです。それを85分以上にするというのは、かなり難しいな~と最初は思いました。なので、オファーが来たときには本当に作れるのかどうか、実はあまり自信がないというのが正直な気持ちだったんですよ。
ただ、ジョン・カーペンターやダリオ・アルジェント、トビー・フーパーという錚々たるメンバーの中に交えてもらえるというのは恐らく今後も2度とないんじゃないか、自信がないからと断る手はないなと思いまして、とにかくやってみましょうと引き受けさせていただいたんです。
HTV:撮影中に最も印象に残っているエピソードはありますか?
TN:なにしろ原作が基本的に海の上だけの話なので、それ以外のところを舞台にしてしまうと原作の意味がなくなってしまうんですね。だから、殆どのシーンを洋上で撮らなくてはいけない。今まで海の上での撮影というのは経験がなかったんですけれど、海で撮影するのは大変だといろいろな人からの話では聞いていたんです。スピルバーグ監督が「ジョーズ」の撮影で苦労したという話も学生時代から知っていましたし。なので、これは大変なことになるんではないかと思って撮影に挑みました。
で、案の定といいますか、撮影が始まってから3日目くらいに台風が来まして(笑)。撮影のために借りていた漁港の水かさが上がってしまって、我々が近づくことすらできないような状態に陥ってしまったんですよ。正直、1週間から2週間目くらいまでは、もしかしたらこの作品は完成しないんじゃないかと思うくらい、全然スケジュール通りに進まないという状態でした。それが一番印象に残っていますね。
HTV:鶴田監督の作品というのは過去のものも含めて、キャラクターの心理描写や恐怖そのもののバックボーンをとても大切にしているように思いますが、監督にとってホラーとは、恐怖とはどういうものなのでしょうか?
TN:恐怖というのは、人間にとって本当は避けたい感情だと思うんですよ。でも、人間は恐怖なしでは生きていけないという部分もある。例えば、もし恐怖心がなかったら、目の前に断崖絶壁があったとしても平気で落ちてしまうわけですよね。恐怖心があるからこそ、断崖絶壁の端には近づかないわけだし、蝋燭の火が灯っているところにわざと手を伸ばす事もない。そういう意味で、恐怖というのは人間にとって普遍的な感情というか、とても大切な感情なんです。だから、実際に崖から落ちるようなことはないけれども、落ちたらどうなるかということを疑似体験させてあげる。それがホラー映画の作られる意義だと思います。
HTV:監督の恐怖の原体験となった出来事、影響を受けた映画やテレビ作品などはありますか?
TN:恐怖の原体験ですね。ボクが小学校3年生くらいの時なんですが、夕方に学校が終わって家に帰って来まして、2階にある自分の部屋に行こうと階段を上がったんです。その瞬間に、2階の廊下を見知らぬ男の人が歩いていたんですよ。当時、ボクの親父は体を患って入院をしていましたし、兄貴もまだ帰ってくる時間じゃない。で、家に一人でいたお袋に“今日は誰かお客さんでも来てるの?”と聞いたんですが、そんな人は来ていないよ、と。確かに男の人を見たと思うんですが、他に人がいるはずはなかったんです。
で、2階に上がってみたところ、やはり誰もいないんですね。結局、自分の部屋に戻りました。それから15分くらいしてからですかね、もしかしたらボクは幽霊をみたのかもしれない、そう思った瞬間にゾーっとしてきたんです。幽霊とか超常現象といった不可思議なものを目撃した瞬間というのは実にリアルで、すぐにビックリしたりとか怖かったりとかではない。むしろ、時間が経ってから怖くなってくるものなんですね。
その後、何十年にも渡って怪談映画とかホラー映画を見てきましたが、たいてい幽霊とかそういうものが出てきた時には、みんなワーッっと驚くわけですよ。これはちょっとリアクションが違うんじゃないかな、と僕の中では思うところがありましたね。幽霊を見てもすぐに驚くとかではない表現の仕方をした方がリアルなんじゃないかと。それが「本当にあった怖い話」というビデオ作品を撮るきっかけだったんです
とてもリアルに感じた作品は、中学2年生の時に初めて見た「エクソシスト」ですね。いかにも現実に恐ろしい悪魔が存在しているかのような描き方にショックを受けました。もし「エクソシスト」を見ていなければ、こういう監督業には手を染めていなかっただろうと思います。
HTV:最も影響を受けた作品が「エクソシスト」ということですが、映画監督ではどなたに影響を受けましたか?
TN:もちろん「エクソシスト」のウィリアム・フリードキンには大きな影響を受けていますが、もう一人ボクにとって欠かせないのがジョン・カーペンターです。彼の「ハロウィン」という作品ですが、それまで殺人鬼が佇んでいるだけで怖いという映画を見たことがなかったので非常に新鮮でした。以降もカーペンター作品というのは、そうした亡霊などがただ佇んでいるというだけで恐怖感を醸しだしていて、その影響はかなり受けました。
HTV:Jホラーというムーブメントに対しては、その先駆者としてどのようにお考えでいらっしゃいますか?
TN:そうですね。ボクがビデオで「本当にあった怖い話」という作品を作った時に、幽霊が出てきても驚かずにじっと見つめるというような芝居を撮ったんですね。要するに、幽霊は襲ってこないんだけれども、そこに佇んでいるだけで恐怖がじわじわと広がるという。その時、僕自身は何か大それた事をしたようなつもりはなかったんです。自分がかつて幽霊を見たときの感触をそのまま映像に置き換えようとしただけだったんですよ。でも、それが結果的に黒沢清さんとか高橋洋さん、清水崇君といった錚々たる作家さんたちに影響を与えてしまって。ボクはまさかそんな事になるとは思ってもいなかったんです。
なので、僕自身はJホラーという形で日本のホラー映画が世界的に評価を受けているという事に関して、どうも未だに馴染めないところがありますね。何というか、ホップ・ステップ・ジャンプではなくて、いきなりジャンプしちゃったような感じですか。それだけに、ボクも常に何か違うことをやりたいなと思いつつ取り組んではいるんですけれど。だからJホラーというものに関しては、未だに自分でもちょっと不思議ですね。
HTV:ホラーTVをご存知でいらっしゃると思いますが、こういったチャンネルが存在することの意義について、またホラーTVに対してのアドバイスなどがありましたらお聞かせください。
TN:ホラーTVというホラー専門チャンネルがこうやって日本で開局して様々な作品を放映するというのは、今から10年前20年前では考えられなかった事ですよね。そういう意味において、とても意義のあるチャンネルだと思います。先ほど「エクソシスト」に強い影響を受けたと申しましたが、それ以外にも子供の頃にアメリカのテレビ番組で「世にも不思議な物語」という作品があって、そうした作品を見ていなければ今のような仕事をしていなかったと思うんですね。やはり、そういった怪奇現象とか超常現象を扱った作品に影響を与えられたんです。
ホラーをバカにする方もいらっしゃるかと思うんですけれども、ホラーというのは実はいろいろなものが詰まっているんです。その辺りをホラー専門チャンネルに幅広く紹介していただけるというのは、日本人にとっても非常に有難いことだと思います。今後もどんどん幅広く作品を紹介していただければと思います。
HTV:最後に、ホラーTVはホラーを一つのカルチャーとして盛り上げていこうと考えているのですが、ホラー・ファンの皆様に監督からメッセージを頂けますでしょうか?
TN:ホラーというと、一概に俗物的な怖さ、お化け屋敷的な怖さの作品だけがホラーとして括られてしまう傾向があると思うんです。でも、実はそんなことはなくて、お化け屋敷の外の現実世界にある恐怖を描いている作品も多々あるわけです。ホラーの幅というのはとても広くて、必ずしも即物的に恐怖を味わえるものだけがホラーではない。もっと奥深いものであるという事を受け取って頂ければと思いますね。