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12月 「猫とカナリヤ」 

猫とカナリヤ 番組詳細はこちら

昔からアメリカには、“オールド・ダーク・ハウスもの”と呼ばれるジャンルがあります。その原点と呼ばれているのが、この「猫とカナリヤ」('27)という作品。で、その“オールド・ダーク・ハウスもの”ってのは何?という話になるわけですが、分りやすく言えば“幽霊屋敷もの”といったとこでしょうか。でも、基本的に“オールド・ダーク・ハウスもの”には、本物の幽霊は出てきません。呪われてるとか、幽霊が出るとかいった噂のある古い屋敷に閉じ込められた人々が、正体不明の殺人者の影に怯えながら恐怖の一夜を過ごす、というのが共通する基本プロットで、ホラーというよりは推理サスペンスに近いジャンルなんですね。

 

なので、ロバート・ワイズ監督の傑作「たたり」('63)なんかは、確かに“幽霊屋敷もの”ですけど、本物の幽霊(と思われるもの)が出てくるので“オールド・ダーク・ハウスもの”とは言えません。ん~、ややこしいですかね(笑)。というわけで、この「猫とカナリヤ」。監督はドイツ人のパウル・レニ。ドイツ表現主義映画の傑作の一つである「裏町の怪老窟」('24)で世界的な注目を集めた人物で、これがハリウッド進出第一弾に当たります。

ストーリーはいたって簡単。金ばかり無心する強欲な親戚たちによって精神的に追い詰められ、発狂死してしまった大富豪サイラス・ウェスト。その死から20年後に、遺言状の封印が解かれることになる。サイラスの亡霊が徘徊すると噂される古い屋敷に集まってきた親戚たち。真夜中の12時を回った時点で、遺言の内容が告げられる。そこに記されていた遺産相続者は、サイラスの遠縁に当たる若い娘アナベルだった。当然のように、他の親戚縁者は納得がいかない。だが、この遺産相続には条件が付いていた。彼女が精神的に異常がないという事が立証されなくてはいけないのだ。もし、アナベルに精神的な異常があると診断された場合は、別の遺言状に記された人物が遺産を相続することになる。案の定というか、アナベルの周囲では次々と奇怪な事件が起き、周囲は彼女の頭がおかしいのではないかと疑い始める。さらに、精神病院から脱走した異常者が屋敷の敷地内に迷い込んだという知らせが入り、人々は屋敷で眠れぬ一夜を過ごさねばならなくなる。果たして、屋敷内には本当に異常者が徘徊しているのか、それともアナベル自身が異常者なのか……!?

タイトルの「猫とカナリヤ」というのは、親戚縁者によって発狂死させられたサイラス・ウェストのこと。ちょうど、鳥籠の中のカナリヤが腹をすかせた猫に追い詰められるように、サイラス・ウェストも強欲な親戚縁者に追い詰められてしまった、というわけです。

パウル・レニ自身がもともと美術監督出身ということもあって、幻想的な美術セットの美しさと、それを効果的に生かした巧みなカメラ・ワークが秀逸。ライティングやシルエット、物体の歪みなどの効果を多用した豊かなビジュアル・イメージは、まさにドイツ表現主義映画そのもの。本作はサイレント映画なのでセリフはありませんが、字幕タイトルにアニメーション処理を施すことによって恐怖や驚きなど登場人物の感情を的確に表現するという洒落たセンスがまた絶妙。さらに、クロース・アップやカットバックを多用する事により、物の音までをも視覚化してみせてくれます。

ヒロインのアナベルを演じるのは、当時ユニバーサルの看板スターだったローラ・ラ・プラント。トーキー以降も生き残ることの出来た数少ない女優の一人で、「ショウ・ボート」('29)のヒロイン役が一番有名です。その他、ユニバーサル契約第一号の女優として知られるガートルード・アスターや、ハロルド・ロイド風の若手喜劇俳優として売り出し中だったクレイトン・ヘイルなどが脇を固めています。

さて、パウル・レニは、この翌年に怪奇ロマンの傑作「笑ふ男」を世に送り出すわけですが、ハリウッド進出第一弾で既にこれだけの傑作をものにしていたんですね。クラシック映画ファンのみならず、一人でも多くの映画ファンに見て欲しい一本だと思います。ちなみに、本作は3年後にルパート・ジュリアン監督によって“The Cat Creeps”というタイトルでリメイクされており、1939年にはボブ・ホープ主演のサスペンス・コメディとしてもリメイクされています。ルパート・ジュリアン版は非常に興味のあるところですが、残念ながらフィルムが現存していないとのこと。また、1979年にもラドリー・メッツガー監督によって「遺言シネマ殺人事件」としてリメイクされています。こちらはオール・スター・キャスト出演のアガサ・クリスティ風サスペンスに仕上がっていて、意外に楽しめる小品佳作でしたね。


日時: 2007年 11月 16日, 01:42 PM  |  コメント (0)

           

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